拙なる日々

コロナウイルス対策の一環としての暇つぶしです。

廃球場跡を(偶然)歩く(3)

高校生になった頃だと思います。『全日本パ・リーグ党宣言』という(私にとっての)衝撃的な本が出版されました。

西武ライオンズが躍進を始めた頃で、後に圧倒的な強さで他の11球団を寄せ付けない黄金時代を作りますが、その時点でも少なくとも人気面では、プロ野球とは、すなわち巨人、および巨人と試合をするセ・リーグチームのものといっても、世間一般的には過言ではない状況だったと思います。実際、テレビ中継は、NHK以外巨人戦ばかりであり、パ・リーグの球場は閑古鳥すら鳴かないガラガラの客の入りでした。

今年コロナの関係で、プロ野球の開幕当初が無観客での開催となり、ベンチからの選手の声と審判の声がやたらと鳴り響き、バットとボールのたたき合う音ばかりが中継から流れてきましたが、「あれ?何だか懐かしいな」と思ったオールドパ・リーグファンは全国にいたと思います。かつては、それくらい客が入っていなかった。

そういうなかで、「世界でただの一人になろうとも、我、熱烈にパ・リーグを愛す!」という各界のひねくれ者どもが寄稿し合って、寄ってたかってパ・リーグをひいきし、巨人とセ・リーグをこき下ろし、その偏執愛を語るというのがこの本の内容でした。 

高校生になっても相変わらず孤独なパ・リーグファンであった私が、近所の本屋で偶然それを見つけたとき、飛び上がるように嬉しかったのと同時に、「こんな本出して、商売成り立つのかな?」としなくてもよい心配をしたことを覚えています。

 

この本が発行された時点では、パ・リーグが発足してからまだ30年くらいしか経っていませんでしたので、「愛を語る」人々の多くが、リーグ設立時の困難な状況や苦難の歴史を直接知っている方々であり、その内容は、その後のONを中心とした圧倒的な巨人人気、そのおこぼれに預かろうとする他のセ・リーグチームへのむき出しの敵愾心にあふれてました。

『なぜテレビや新聞は「セパ」と言い、「パセ」と言わないのか?日本語学的にはパセの順序が正しい!』

とか、

パ・リーグに客が入らないのは、日本人の付和雷同の精神に問題があるのだ。巨人人気が続く限り、日本に真の民主主義は育たない!』

とか、細かい内容は忘れましたが、結構な学者先生が、こんな調子でもう無茶苦茶なことを言う。各執筆者が、とにかく長年の鬱積を晴らすべく、言いたい放題書きたい放題といった内容であり、(私にとっては)胸のすく笑いの止まらない本でした。

 

この本で知ったのが、パ・リーグ創設と同時に設立された毎日オリオンズ(現在の千葉ロッテマリーンズの前身)というチームの存在。そこが、私が小学校のときの「授業」で知った近鉄バファローズの西本幸雄監督が、現役選手としてユニフォームをまとっていたチームであることを知りました。オリオンズは、設立していきなりのリーグ優勝、そして日本一に輝いた強豪チームだったようですが、西本さんをはじめ主力選手の多くが、別府の星野組という社会人野球チームの出身者であったということも、知識として得ました。

 

こんな話しを書いていますが、この出来事は私が生まれる結構前の話でありまして、私自身の生きている時間からすると、「歴史」の話に過ぎない。それでも何故だか懐かしく感じる、ちょっと不思議な感覚があります。

プロ野球にまもなく新リーグができるという熱気。もうもうたる湯けむり。別府にあった社会人強豪チームの主力選手に対して、プロがかける壮絶な獲得競争。男達は夢を語り、口説き口説かれ、酒と煙草と女にまみれて、赤くくすんだ顔をときには別府の湯で流し、最後は札束をまき散らしていたのかもしれない。

不思議な懐かしさというのは、この頃を日本プロ野球の青春時代というか、なにか映画の「三丁目の夕日」的な匂いを私が感じるからかもしれません。こういう題材を小説や映画にしても面白いのかもしれませんが、まあ、だいぶ「おとなの」夕日になりそうですね。(あと1回つづく)